「アフリカンダンス」とここで呼んでいるのは、アフリカ大陸で踊られている伝統舞踊のことです。
わたしはその中でも、西アフリカ、特にセネガル共和国とギニア共和国のダンスを専門にしています。
西アフリカは大西洋に面したアフリカ大陸の中部あたりを指して言います。
この地域はアフリカの中でもダンスと太鼓が盛んで、ダンスは世界の中でも心拍数が一番高くなると言われているほど、肉体的に負荷がかかる激しいダンスです。
スポーツでいうと、その運動量はバスケットボールに匹敵するだろう、と言われています。
全身を使い、リズミカルな太鼓や楽器の音に合せて踊ります。
その踊りのルーツは何千年、何万年昔にあると言われていて、ひとつひとつのリズムとダンスには古くて長い歴史があります。
激しいダンスではありますが、 長い歴史を生き延びてきただけあって、きちんと踊れば体に無理のない、そして、とても体によい動きです。
このダンスの素晴らしいところは、伝統が今の時代に生きているということです。
ずっと伝え続けられてきて、生活の中に今でも生きています。
日本の盆踊りはもうほとんど死んでいます。
生で歌をうたえるひとも、ちゃんと演奏できるひとも少なくなっていて、日本中同じような踊りを踊っています。
その他の伝統芸能というと、一部の限られた人たちだけが行い、一部のひとたちが鑑賞するもので、一般のひとの生活の中には身近なものではありません。
唯一生きているのは、沖縄の音楽と踊りくらいでしょう。
今年の春、四国で歩きお遍路をしましたが、その時であった淡路島からきた60代のおじさんがおっしゃっていました。
島で島の歌と音楽を知るひとがひとりもいなくなって、島の歌は失われてしまった。
盆踊りも知る人もいない・・。
ところが、ギニアでは、少女たちが初潮を迎え大人の仲間入りをすると、その年代の少女たちだけが集められ、太鼓と歌に合せて踊りを踊ります。
一般の少女たちです。
男女が婚約をすると、ダンサーとミュージシャンが集まって、二人のために祝い歌を歌い、ダンスを繰り広げます。
セネガルでも子どもが生まれると、ミュージシャンが来て音楽を演奏し、それに合せて家族や友人たちがステップを踏みます。
そして、ごちそうを食べます。
長い歴史の中で、リズムもダンスのステップも少しずつ変化してきたことでしょう。
けれど、その精神と形態はずっと伝え続けられてきているのです。
古い歴史を持ちながらも、今でも生活の中で活きている伝統音楽とダンスであることに、わたしは大きな魅力を感じています。
それから、西アフリカは多くのひとびとが奴隷としてアメリカ大陸に連れて行かれた悲劇の歴史を持つところでもあります。
しかしその悲劇が、世界中のひとびとを魅了する音楽を次々に生みだしたのです。
ジャズ、カリプソ、レゲエ、サルサ、サンバ、ルンバ、ロック、ポップ、ヒップホップ・・・いわゆる、現代のポピュラー音楽のほとんどは、アフリカから連れて来られた奴隷たちが、西アフリカのリズムとダンスをもとに南北アメリカとカリブ海で作ったものです。
その歴史は複雑で長いものですが、遠い昔から現代までアフリカで伝え続けられ、そして、世界中に影響を放ったその音楽には、底知れないパワーと叡智、そして魅力があります。
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