このシンクロした夢を見てから、少しずつわたしの意識は変わって行った。自分の中にある意識や、イメージとして見えるものや、感じるものは、自分の中だけで完結しているのではないな、と、なんとなく分るようになった。けれど、自分の「記憶」を決定的に信じるようになったのは、もっと後である。
しかし、このことを書くのはわたしにとって難しい。現世と深いかかわり合いがあるからだ。さっきから書きあぐねている。しかし、詳しくは書けないが、できるだけの範囲で正直に書こうと思う。
そう、わたしは、塔を一緒に登った「彼」と再び今世で出会ったのだ。もう、随分前になる。最初会ったとき、ドキッとした。でも、それがなんなのか分らなかった。わたしたちは互いに意識しながらも、長い間、互いにアプローチすることはなかった。二人ともシャイだったのだ。そうやって年月が流れた。しかし、ある日、気付いた。わたしたちは、実は、愛し合っている、と。しかし、時はすでに遅かった。わたしは結婚していたのだ。しかも、「彼」の友だちと。
どうしたら良いのか分らなかった。夫とわたしはそのころ、すでに関係性は悪く別居していた。しかし問題は「彼」と夫は友人同士だったのだ。いくらわたしが離婚したとしても、この関係は難しいだろうと思った。それでも互いの間にある感情は強いものだった。なにか抵抗しがたい力をもっていて、しかも懐かしささえもあった。まだ、この「彼」が塔を一緒に登った前世からの「彼」だと、わたしは気付いていなかった。惹かれ合いながらも、悩み抜いた。
ひとりでは持て余してしまい、NYの占い師たちを訪ね歩いた。ジプシーの末裔の彼女たちは、すごい力を持っている。彼女たちの予言が外れたことはなかった。「この人は数ヶ月後、フロリダに行くことになります」と言えば、本当にそうなるし、「あなたは今の結婚でこのような問題がありますね」と言えば、当たっている。
その彼女たちが異口同音に言った。
「彼」こそがあなたの相手です。この人と一緒に人生を歩みなさい。「彼」も待っています。今すぐ行くべきです。
何人目かの占い師に、わたしは我慢できなくて言った。
そんなことが聞きたくて来たんじゃない!「この人はやめなさい」って言われたくて、NY中走り回っているのに、なぜ、みんな同じことを言うの!!
気がつくと声を上げて立ち上がっていた。・・わたしの中の「女王」が全開したのだ(笑)。しかし、わたしは本気でそう思っていた。誰かに言われたかったのだ。「この男は酷い男ですよ。止めたほうがいいです。」自分であきらめがつかなかったから、バカだと思われてもいい、誰かにそう言われたかったのだ。
しかし、その占い師は、下からわたしを見上げ、穏やかに言った。
わたしたちは、見えることしか言いません。それが我々の仕事です。それに、人は運命には逆らえませんよ。「彼」が運命の人です。
しかし頑固なわたしである。いくら別居していても夫のことは、傷つけられない。そう考えた。実は、恐怖からそう思い込んでいたのだが、そのことにはまだその時は気付いていなかった。「彼」にもそう言い「彼」とは友だちのままでいた。そして感情は抑えたまま日々は過ぎて行った。夫とは離婚が決まったが、そのことも「彼」には言わなかった。
ところがある日、とんでもないものを見てしまった。夫の背中に・・・なんと、中世のヨーロッパ人がいたのだ。濃い紫色のガウンをまとった、逞しい男だった。あ!と声を上げそうになるのを必死でこらえた。
その瞬間に、わたしはすべてを思い出してしまったのだ。「彼」が誰だったかも・・・。
・・・つづく
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