朝早く目をさましたけれど、家の中には朝食用の材料はなにもなかった。もちろん、簡単に朝食を食べられるカフェもベーグルプレースも、この界隈にはない。セブンイレブンにパンを買いに行くことにした。昨日の煮魚と、半分死にそうになりながら生き延びている冷蔵庫の中のレタスで、サンドイッチを作ろうと思ったのだ。おばさんのアイディアである。オヤジは新聞が買いたいという。乙女は瞑想がしたい、と言ったけれど、お腹をすかせたオヤジがおばさんとタックルを組んで、冷たい雨の中、近所のセブンへと向った。
人工的な明りの中、上の空の乙女や芸術家を無視して、オヤジとおばさんがリーダーシップをとる。おばさんが、ブランドと値段と日付を注意深くチェックしてパンを選ぶと、オヤジは新聞をとって一面を見る。中国の地震の写真が載っていた。サンドイッチにはポテトチップスがいるわ・・・とアメリカ育ちのおばさんはチップス売り場へ向う。サンドイッチにアメリカではチップスがよくついてくる。一緒に食べるとおいしい。結局、パンと新聞とナッツとポテトチップスという全く可愛いげのない、まるで酒飲みのような買い物をしてセブンを出ようとした。
すると、出入り口側にいたレジの中年のおばさんが「ありがとうございました」と言った。その声のトーンに、乙女が反応した。そしてみんなで一斉にその人の顔を見た。「ありがとうございました」の言葉に反して、顔はまったくありがたくなさそうで、しかも、その視線は下向きでどこかを泳いでいた。こちらのことなんて見てもなかった。その目つきとエネルギ−にぞっとした。
乙女が言った。
「あの人は病気だわ」
「日本の人はあんなもんだ」オヤジが言った。
「もしかしたら、みんな病んでいるのがこの国かも知れないわよ。」おばさんがささやいた。
こころにもない言葉を発していると、いつか人はどんどん病んで行くということを、まだ知らない人が沢山いる。みんなが病んだような顔をしていると、健康な状態がどんなだったかを忘れてしまう。
「マニュアル通りにやってるだけなんじゃないか」と正義漢が言う。
「でも、わたし、怖い・・・」乙女が体を震わせた。
セブンイレブンはアメリカの会社である。そのことを知っている日本人は少ないかも知れない。無意識のうち無理してアメリカのマネをしているうちに、こころが空虚になってしまったのかも知れない。アメリカから戻って来たばかりの「わたし」は、日本に戻って来たことを実感しながら雨の中をマンションに戻って来た。
makoutaさんへ
こんにちは お久しぶりです!自分の環境がやたらと激変したので、暫くきちんとブログを拝見できなかったのですが、NYでは、とても素敵な時間を過ごされたようで、私まで楽しくなってしまいました。かなりダンス漬けだったようですね(笑)!今までの苦悩を拝見していたので、本当に嬉しかったです。
マニュアルどおりに挨拶は 都会だけではなく、わたしの住む田舎でも同じですよ。特にチェーン店ですけど。
「この人 気持ち入ってないな~。」って思ったときには 逆にまっすぐ「ありがとう。」って返すと、ちょっと面食らうようです(笑)。
きっと 相手の眼が見えてないというか 見てないのか何なのか分かりませんが・・・。相手の眼に映る自分が見えないんだろうな~と思います。
お仕事だから?いやいや、もったいない事です。
投稿情報: sae | 2008年5 月14日 23:13