その時のわたしの衝撃が、あなたにわかるだろうか?本当に、ひっくり返るかと思った。膝の力が抜けた。
ある朝、掃除をしていて、なにげなく、本当に珍しく、たまたま寝室の小さなテレビのスイッチを入れた。床にちらばっていた洗濯物を拾い、腕の中にまとめて、ヒョイとテレビを見た。その瞬間に映し出されたのが、アレだった。いきなり目の前にあった。にわかには信じられなかった。
「この塔を登るには階段ではなく斜面になっています。なぜなら・・」と、アナウンサーが呑気に説明している。わたしと「彼」が歩き、友だちが後ろから追いかけて来た塔が、学生のころ、友だちと同時に夢に見た、あの塔が・・目の前にあった。
へ・・?
あるの?本当にあるの?え〜〜〜〜〜〜〜!?
ヘナヘナとわたしは洗濯物を両腕に抱えたまま、ベッドの端に座り込んだ。
なんか、記憶のと違ってかなり薄汚れているけれど、何百年もたてばそりゃそうだ。で・で・でも・・それにしても、ホントにあるとは!?
いきなり原野にあった巨大なニューメキシコの階段にも驚いたけれど、こっちの階段の「ない」塔には、もっと驚いた。だって、階段のない塔があるとは思ってもみなかっただけではなく、複数の人間が関わっているし、しかも、現世にまでそれが繋がっているからだ。でも、わたしが感じたことも見えたことも記憶も夢も・・・現実?
ベッドに腰掛けたまま、洗濯物を抱いたまま、大混乱を極めたわたしは、それまでのことを思い返してみた。
そういえば・・いつだったか、わたしが夫の膝の上に座っていたら、「彼」がつかつかと後ろから寄ってきて、わたしを抱きしめたことがあった。背中から優しくぎゅ〜っと抱きしめてきたのだ。そして、おもむろに立ち去って行った。突然のことだったので驚いたが、わたしの全身はぼわ〜っと暖かくなって、しばらくトランス状態だった。そのことを女友達に言ったら「二人分の愛をもらったから、そりゃ〜気持ち良かったんじゃない。当然よ〜!あたしもそんな恩恵に預かりたいわ〜。」と笑われたけれど、そんな感じでもなかったのだ。「彼」の腕の中がとても懐かしかったのだ。電気が走ったようになった。そして、その感覚がずっと体から離れず、忘れられなかった。
そうか、あれは、そういうことだったのか・・・。あの温もりは時空を超えて出会えた愛する人の懐かしい温もりだったんだ。
夫が中世のヨーロッパの人に見えたのは、やはりスペインの南部の王国の王だったからなんだ。なるほど・・・。
深いため息をついた。
学生のときから始まった謎は解けた。塔もあったし、「彼」も存在したし・・・。そうか、わたしの記憶はどうも、現実と確かにかかわり合いがあるようだ。このテレビは、わたしにそのことをハッキリと見せるためのメッセージだったのだろう。
かなり長い時間ベッドの上で放心状態だったが、ようやっとわたしは立ち上がろうとした。
しかし、あらたな謎が起こった。じゃぁ、なぜ・・・
なぜ、今世でも、「彼」とわたしは、夫とわたしが出会うより先に出会っていたのに、同じ間違いを繰り返したのだろうか?今世では政略的な結婚じゃなかったわけだし、「彼」とわたしは出会ったとき、互いに独身だったし、いくらでもチャンスはあったのに。いつも傍にいたのに・・。最初に出会った時から、わたしはドキリとしたのに。なぜ?なぜ、前世と同じような状況に持ち込んでしまったのだろうか?なぜ、そうなる前に自分の気持ちにさえ気付かなかったのだろう?しかも、輪廻転生は本当にあるようだけれど、なぜ、わたしには記憶があって他の多くの人にはないのだろうか?そして、それを証明するような出来事がなぜ次から次へと身に起こるのか?
一体どういうことだ?
このことは、わたしになにを指し示そうとしているのだ?
しかも、生きるってなに?
死ぬってなに?
魂って?
肉体って?
そして愛って?
なにより・・・一体全体「世の中」ってなに??
謎がとけたかに見えたけれど、かえってわたしの頭の中はぐるぐるになってしまった。
・・・・つづく
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