昔々、あるところに小さな女の子がおりました。その女の子は、秋の果物が大好きでした。ぶどう、なし、栗、、、その中でも、特にいちじくが大好きでした。女の子の家族がずっと親しくしていたお家の広い庭には、いちじくの木が沢山ありました。秋になると、女の子のお母さんは女の子を連れてこの家に行きました。「こんにちは。いちじくはもうおいしい頃ですか。この子に食べさせてくださいますか。」そうして、女の子がこころゆくまでいちじくを食べさせてあげたのでした。
ところが、女の子は、大好きなクセにいちじくの皮と実の間から出る白い汁に弱く、かぶれてしまいます。まだ小さな女の子の口の両端は、いちじくを食べながらぷっくり腫れていました。それでも女の子は、木の切り株に座って食べ続けたのでした。そしてお母さんに、枝になっている実を指差し「あそこにもある」「あっちにもある」と言って採ってもらい、日がとっぷり暮れてもいつまでも切り株に座り続けたそうです。
はい、この女の子はわたくしです。いちじくが大好物で、この知り合いの家には毎年お世話になっていました。昨日はホームシックで母のことを思い出し、そして、先ほど家に帰る途中にスーパーによったとき、「あぁ、いちじくの季節だな〜。母さん、送ってくれないかな・・」と思ったのでした。今年は、冷夏でしたが、それでも日差しはあったので、きっとおいしいはずです。けれど、東京の店で売っているものはおいしくありません。柔らかくて新鮮なものは、やはり実家の近くのものなのです。
そうして、家に戻ってみたら、宅急便屋さんから「いちじくのおとどけ」の知らせが入っていました。届け人は母の名前。「やっぱりね・・」とひとりで微笑んだわたしでした。わたしは、母からいろいろな力をもらっています。母は見えるはずのないものの見えるひとのひとりで、秘めた力をもったひとです。
ひとりで一気に三つ食べました。そして、まだ沢山あるので、美味しいうちにお隣に持ってゆこう、と思っていたら、そのとたんにお隣から「かおるちゃ〜ん」と声がかかり、おいしいリンゴジュースをもらいました。お返しにいちじくを渡しました。
世の中に、魔女はいます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・魔女
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