連休は里帰りをして羽を伸ばす、と以前書いた。多分、多くの人がわたしが九州の実家に帰ると思ったことだろう。確かに、福岡の小さな町はわたしが生まれ育ったところである。風にほのかに香る潮風の匂い、高台から見える平野から海まで続くのどかで美しい風景、一度にいくつもの虹が登る神秘的な谷、山伏のいる山々、開放的で親切な人々、家族。今でも目を閉じるとありありと思い浮かぶ。けれど、わたしの実質的な故郷はNYになってしまった。こんなことになるなんて、自分でも思いもしなかった。
昨夜のダンスクラスのことである。ダンスの途中でふと窓の外を眺めた。そこには、NYの典型的な景色が広がっていた。建ち並ぶビル、昔から馴染みの洋服屋、ドラッグストア、家路へと向う人々、バス、車。風景が、音と匂いと混ざりあって、全身に流れて来た。スタジオのなかでは、リズムが素晴らしいミュージシャンたちによって刻まれていた。まるで、ずっとNYにいたままで、ここから離れなかったような錯覚に陥った。
クラスが終わった後、みんなが「おかえり」「あなた、ずっと日本にいるつもり?」「いつ戻ってくるの?」「足はどう?」「その傷ならちゃんと回復してるわね」「ふくらはぎをちゃんとマッサージするのよ。ボールを使うといいわ。」「日本でもダンスしてるんでしょう?」「リハビリはちゃんとした?」わたしを取り囲んで矢継ぎ早に着替え室で言う。嬉しかった。
なにが嬉しいって、甘えられることだ(笑)。NYではずっとそうだった。いろいろな人が多くを教えてくれたし、沢山の愛情をくれた。わたしはいつも教えられるほうだった。もちろん、年令や経験も重ね、責任のある態度をとらなくてはならないのは人間として当然である。けれど、ときには甘えたいものである。「あぁしなさい」「こうしなさい」と誰かに言われたいものである。そして、自分のことをよく知っている人たちと、気兼ねない会話をしたり、近況を報告し合ったりしたいものだ。NYではそれができる。
わたしたちの多くは、時には電話番号さえ知らないが、お互いのことを深く知っている。それは、何年も何十年もダンスを毎日のように一緒にしてきたからだ。しかも、ダンスは、その人の内面性と人間性を直接的に映し出す芸術である。ダンサーには、誰かがステップを2〜3踏むのを見ただけで、その人の状況やこころのありかが分る。昨夜も「足は少々辛いかも知れないけれど、リズムははずさなかったわ。」「ダンスの型は、全然崩れていないから安心して大丈夫よ。」「いいダンスだったわ。怪我からなにかを学んだのね、きっと。」と、きちんと見て、わたしの中に入ってきてくれ、励ましてくれた。わたしたちは、NYのダンスシーンの歴史の一部を一緒に作ってきたし、たくさんの思い出を共有しているのだ。
ダンスをしたせいもあるだろうけれど、見慣れた風景のなかで、彼女/彼らと一緒にずっと昔からやってきたように時間を過ごし、全身が緩むのを感じた。ついでに涙腺も緩んだ。この一年のリハビリ生活から、やっと本当に開放された気分になった。里帰りというのは、こういうことだろう。誰かが「ふるさとは自ら作るものだ」と言っていたけれど、その通りだと思う。
忙しくて騒がしくて物騒なNYに、ほっとする、と言っても、にわかには信じてもらえないかも知れないけれど、わたしの羽は、伸び伸びしている。あなたにもそんなふるさとがあることを祈る。
こんにちは。
こちらは、夜中ですが・・
赤ちゃんの頃から知っている、友人の娘さんが遊びに来ていて、つい夜更けまで話し込んでしまいました。
もう16才になる彼女は多感なときで、とても可愛いのです。
あぁ、あんなに小さかったこの子が、もう歴史の話しや、国際情勢や、女性問題に興味を持つようになったのだな〜と感慨ひとしお。
でも、彼女は明日も学校があるので早く起きなくてはならず、マクタおばさんはおしゃべりを切り上げてコンピュータ−を開いたところです。
淡々と保守的な生活ですか・・・
わたしも自信なんてないですよ。
人から見たら、あるように見えるらしいですけど(笑)。
いつもそう言われて違和感を感じるのですが、自信があるのはダンスくらいで、それもこの怪我でかなり失いそうになったのを、やっと回復しているところです。
人間、そんなもんだと思います。
そして、どんな人も一冊の本が書けるほどの物語を持っている、ということわざがあるように、きっとKYさんにも物語があると思います。
でも、コメントしてくださってありがとう。
誰かが楽しみにしてくれていると思うと、励まされます。
with love,
makouta
投稿情報: makouta | 2008年5 月 9日 13:12
はじめまして。
マクタさんの日記、いつからか読ませていただいてます。
とても胸に響く日記から、元気や勇気をいただいたり、
その感覚は私には分からない、どうして?なんで?と
多くの角度から、色々なことを感じさせてもらっています。
こういう人生を送っている人もいるんだ。
こんな人もいるんだ。
それが、はじめて読んだ時の率直な感想でした。
自信もなく、私自身これといったモノもなく
保守的に淡々と毎日を生きている自分にとって、
今からでも、自分に素直に生きて生きたい
そう思う私には、マクタさんはとても魅力的に感じます。
今回、勇気を出して初コメントしてみました。
これからも、日記楽しみにしています☆
投稿情報: KY | 2008年5 月 9日 09:04