この前、NYからの飛行機で中国人の女性と隣り合わせになりました。
ビジネスウーマンで、経済状況や世界情勢を話していました。
上海に住んでいるそうで、今の中国の新興中流階級を代表したような方でした。
夫と子どもがいて、ご自身は海外を飛び回りながら仕事をし、メイドを二人雇っているそうです。
英語も随分上手でした。
今、中国は経済的に上り坂ですが、外から見ると不安材料も多いです。
公害、食品の安全性、格差、など、負の部分が目につきます。
けれど、そこで生活しているひとには、そうは感じないのだな、と思いました。
彼女は活き活きしていました。
けれど、日本では発展にともなう中国の陰の部分が取沙汰されがちです。
特にこの頃では、食の安全性が取沙汰されています。
中国産のミルクにメラミンという有毒化学物質が混入されていて、赤ちゃんが死亡したり病気になったりしただけではなく、あちこちで影響が出ているとか・・。
有害なお米と一緒にニュースになっています。
どちらの話しを聞いても、わたしはすぐに日本のことを思い出しました。
日本もものすごい農薬を使ってお米を作って来ています。
子供のころ、学校のマラソンで田園地帯を走ると、そこら当たり中で農薬がまかれていて息ができませんでした。
お百姓さんは、マスクをして重装備でした。
今の日本は随分農薬の量が減りましたが、それでも、農薬は相変わらず使われており、人体にかなり有毒な除草剤もほとんどのところで使われているのが現状です。
お百姓さんたちから話しを聞きましたが、米作りで一番大変なのは夏の暑い盛りの草取りらしく、除草剤の有毒性は分っていてもどうしても使うそうです。
百姓の高齢化もそれに拍車をかけているそうです。
わたしは、基本的にお米は家族のつてで、無農薬の合鴨有機米を食べています。
玄米食なのですが、玄米にこそ農薬の残留が多いからです。
けれど、無農薬とうたわれているものでも、どこかの過程で農薬やクスリを使っているのが事実らしいです。
特に、発芽させるときが難しいそうで、そこで一度使ってしまうひとも多いとか・・・。(これは、合鴨農法を勉強した妹が実際に経験したなかから聞いた話しと、知りあいの有機野菜農家から聞いた話しです。)
なので、家族が太鼓判を押す確実なひとから入手しています。
一般のお米は、日本産のものでも怖くて買えません。
どうしても外食する場合などは、自分が毒を食べていることを承知で覚悟して毎回食べています。
除草剤や農薬の怖さを、田舎育ちのわたしはよく知っているからです。
けれど、毒のお米を作るお百姓さんだけを一方的に責める気にはなりません。
効率よくなんでもする、というのが、この日本の60年間の姿勢です。
消費者だって、安くて見栄えが良いものばかりを追い求めてきました。
みんな楽に生きたいと思ってきました。
百姓のことを低くみているひとさえいます。
でも、そのためになにを失って来たか。
それを、中国はわたしたちに鏡となって映し出してくれるような気がするのです。
メラミンのことをきいたときは、すぐに『はせがわくんきらいや』を思い出しました。
昔、母に読んでもらい、胸が痛くなった絵本です。
日本でも、50年ほど前中国と同じ事件が起こっています。
量産するために、(そう、中国と同じように)ヒ素を混入したミルクが市場に出回り、多くの赤ちゃんが死亡、または被害を受けたのです。
この絵本は、そのミルクを呑んで障害をおってしまった『はせがわくん』とその友だち『主人公/ぼく』のお話なのです。
この日本での事件を『森永ヒ素ミルク事件』と呼んでいましたが、森永も世の中のひとも、このことをきちんと片付けることなく「経済成長」に一生懸命になって来たわけです。
わたしの家族は、社会現象に敏感で正義感がひとの百倍くらい強い家族でしたので、森永の製品は一切買わないという姿勢をもっていました。
子供のころからずっと森永のチョコレートもキャラメルも一切我が家では禁止でした。(ちなみにテレビも、コカコーラも、マクドナルドも、カップラーメンもダメでした・・笑)
森永が、ヒ素事件によって被害をこうむったひとたちにたいして、きちんと対処しなかったからです。
ささやかな抵抗をしていたわけです。
そういうのを「不買い運動」と言いますが、わたしの周りでは、そのことを理解するひとはいませんでした。
遠足などで家族のいいつけを守ったわたしが、友だちの差し出す森永のキャラメルを『食べない』というと、みんな『???』でした。
小さな田舎町で、世の中の動きに一般市民が参加したり、権力にささやかながらでも抵抗する、という意識が低かったこともあると思いますが、みんな、お金儲けに一生懸命で、何万(統計に登って数字になっているのは1万3千人だけれど、実際は何倍もいるだろう、と予測されている)もの赤ちゃんとその家族が、そのせいで大変な思いをし、今も生きていることを無視してきたのも事実だと思います。
中国のことは、対岸の火事でありよく見えると思います。
けれど、中国人たちはそんなに危機感を持っていないのが現状ではないか、とこの飛行機で隣り合わせた女性と話していて思いました。
「中国は今最高よ。ヨーロッパもアメリカも下り坂だけれどわたしたちは上向きだもの。」と堂々と彼女は胸を張って言っていました。
40年まえ、50年前の日本人も同じ気持だったのではないでしょうか。
わたしが「森永のキャラメルは食べない」と言って、みんなわけが分らなかったのと同じです。
光化学スモッグで多くが喘息になり、伝統は断ち切られ、地方の過疎化が始まり、海はヘドロでいっぱいになり、山々は切り崩され、赤ちゃんたちがミルクで殺されたり病気になったりし、自然とひとびとのこころが崩壊し始めたのが、『ALWAYS 三丁目の夕日』とその少し前の時代なのです。
けれど、当時の日本の多くの人たちは今の中国人と同じように『あぁ、わたしたちは前進している。発展している!』と思っていたのではないでしょうか。
そして今でもそう思っていて『ALWAYS・・』のような漫画と映画が生まれ、多くがあの時代を懐かしがるのではないでしょうか。
あの映画はヒットし、日本アカデミー賞までとりました。
中国人も、50年後に今の時代を懐かしみ『あ〜、経済成長にみんなで燃えた素晴らしい時代だった』と同じような映画を作るかもしれません。
自然が破壊されて、ひとびとはこころの在処を失い、自殺率が上がり、学校や政府が崩壊し、親が子を、子が親を殺す時代が訪れても・・・その始まりを作った時代を懐かしく思うのではないでしょうか。
それにしても、わたしが時間の許す限り見ているニュースでは、メラミン事件に関連した事件としてヒ素ミルク事件に触れることはありません。
全く同じことが起きているというのに・・それで今でも苦しんでいるひとたちが50代の半ばを迎えようとしているというのに・・・
確かに中国は危ないラインの上を歩いているかもしれません。
でも、そんなに日本と違うんだろうか、と思うのです。
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