先日、NHKの昼間の番組を観ていたら、五嶋龍くんというバイオリニストの大学生が出演していました。彼は、子供バイオリニストとして才能を発揮し、アメリカでも一躍脚光を浴びた、五嶋みどりさんの弟です。今、ハーバード大学で物理学を専攻しながらバイオリンもやっているそうです。
彼のことはあまり知りませんでした。ただ、存在は知っていて、あのみどりさんの弟さんだったら、プレッシャーもあって大変だろうな〜とはどこかで思っていました。ところが、彼は淡々と自分の人生を生きている印象でした。学校に行き、毎日バイオリンの練習もし、恋愛もし、大好きな趣味の空手も毎日のようにやっている・・将来なにになるかもハッキリとは分らない、という若者特有の態度も微笑ましいものがありました。「姉が名の通ったバイオリニストだしボクも!」とかそう言った力んだ感じは感じられず、バイオリンは子供のころからやっているものなので、バイオリンなしの生活は考えられない。空手も大好き。学校の勉強は大変だけれど、物理には興味があるので面白い。ただ、穏やかにそういっていました。なんだか、本当の学生っぽくて(?)いいな〜と思いました。わたしも大学生のころはホントによく勉強し、寝る間も惜しんでいろいろな経験をしたものです・・。懐かしい。
ところで、龍くんの言葉の中でとても共感するところがありました。インタビュアーが(この女性はいつもとんちんかんなことを言うな〜と思うのですが・・)「バイオリンをずっと続けてらっしゃいますが、楽しいですか?大変と思うことはありませんか?」と聞きました。わたしは即座に「大変じゃないわけ、ないだろう・・・」とこころの中で応えたのですが、龍くんも一瞬だけ不満を顔にしたあと「なにごとも、続けるということは大変なものです」と答えました。
続けることは、大変です。当たり前です。それが、好きなことでも、大変です。わたしも、長い間、踊りのレッスンを受けてきましたが、毎日やっていることがただ楽しいばかりではありませんでした。体がしんどいときも、精神的にあがらないときもありました。人間関係だって楽なことばかりではありません。それでも、週に6回はレッスンを受け、リハーサルを重ねました。毎日8時間踊っている時期もありました。倒れそうになったことも数回あります。特に、今は日本という芸能や文化の点では劣悪な環境にある中、続けるのは一筋縄ではありません。お稽古できる場所が少なく、刺激も少ない中、体力を維持するために走ったり、ジムに行ったり、家で体を動かしたり・・単に楽しいわけがあ〜りません。時には、面倒で仕方ないときもあります。「あ〜〜、今日はやりたくない・・・!」そう思うことはしょっちゅうです。始めてしまえばそうでもないんですけどね・・・
けれど、なぜか、世の中のひとは、「あれだけ続けているのだから楽しいのだろう」と単純に思うようです。いいえ、努力しなくちゃなにごともなせません。そして、続けるっていうことは、関係性にしても、芸にしても、学問にしても、スポーツにしても、相当な精神力と意志が必要とされます。もちろん、その根底には情熱と愛情があるのですが・・・実際になにかを続けることは容易ではありません。アフリカンダンスをやるひとたちの90パーセント以上が3年と続かないのをみれば分ることです。わたしの、観察では、特に日本の最近のひとたち(なんて言うと、ものすごく年寄りみたいですけど・・笑)には、継続の忍耐力がないように見受けます。誰かにすぐに認められたり、上達しなくては、飽きるのか、それとも忍耐力が最初からないのか・・。わたしはよく「アフリカンダンスをすぐに上手になる方法はなんですか?」と聞かれるのですが、そんなもの、あったらわたしだって聞きたいです(笑)。樹が大きくなるのに、太陽の光と水とそして長い年月がかかるのと同じように、芸はどうしても条件と時間をかける必要があるのです。それに、芸というのは、ビニールハウスで化学肥料を与えて作ったトマトのように手早く作っても、まともなものはできません。真摯にそして地道に続けることがどうしても求められます。
引き合いに出すと、NYのひとたちは長い間踊り続けます。誰にも認められなくても、すぐに上達しなくても、辛抱強く続けるひとたちが多くいます。60才を過ぎてもまだ自分を磨くこと、楽しむことを追求し、30年近くアフリカンダンスをやっている尊敬すべき女性たちもいます。それも、ほぼ毎週踊るのです。彼女たちの踊りは素晴らしいです。時間をかけて成熟され、そぎ落とされ、大切なものだけがそこにある、という踊りです。
わたしはこの頃、自分のクラスはおやすみして、ユッスー先生のクラスに通っていますが、継続してくるひとはほとんどいません。継続しないだけではなく、そのまま、人前に出てショウに出たりする人も少なからずいます。なにも見えていない。なにも踊れていない。そのままで。特に伝統芸能は、繰り返しが必要とされます。それをしないまま、自分を商品のように外に出すと、薄汚れるのはそのひと自身であり、芸は踏みにじられることとなります。しかし、少なからずの人が結果をすぐに出そうとします。
みなさん、なにかを始めたらとにかく続けてみましょう。わたしも若いころ言われました。まだ20代の前半でしたが、「継続は力なり」渋谷のセンター街を仕切っていたやくざのおやじさんでしたが、渋谷の路上で踊っていたわたしを気に入ってくれ、言ってくれたのです。そのときはその言葉の意味が本当には分っていませんでした。けれど、今は分ります。なにかを理解し、なにかを知り、なにかを自分のものにするのは、ものすごく時間がかかるのです。そのときの年齢、そのときのコンディション、そのときの先生、そのときの状況、すべてによって同じステップを踏んでも、見えるもの、感じるものが違います。それを何度も何度も繰り返し、そして、感覚を開いて磨いて行くうちに、だんだん見えてくるものが広がってくるのです。そして、体もできてゆくのです。
まず、10年は続けてみましょう。なにか好きになったら、なにかに情熱を持ったら、それをホントに知りたかったら、忍耐と努力と継続は、不可欠です。
写真一番上は、長い間ダンスを続け楽しんでいる女性のひとり。後ろにも60歳代の女性たちが続いている。すぐ上は、3才からダンスを始め、アフリカには7才で行き、アメリカを代表するモダンダンスカンパニースクールのアルビン・エイリーの特待生だったランディ。NYのトップダンサーのひとりだった。今は、一児の母となり、看護士として働きながら踊り続けている。
コメント